Soft Matter


ソフトマターの秩序形成

ソフトマターとは、コロイド・液晶・高分子・両親媒成分等の物質群の総称であり、
 i)大きな内部自由度に由来するエントロピー
 ii) 分子同士が自己集合化によるメソスケールで複雑な構造形成
 iii) 化学反応等の外部からの刺激と結合した非線形・非平衡構現象
にある。 我々は、このソフトマターが生み出す構造形成の普遍性と多様性を構造形成ダイナミクスとソフトマター複合系をキーワードに研究している。

ソフトマターの構造形成ダイナミクス

1) 球状ミセルの流動相から秩序化に向けての静的及び動的構造形成
2) 両親媒性分子の秩序転移ダイナミクス
3) 両親媒性分子の外場下での構造形成
4) 高分子の結晶化誘導期間における構造形成
5) 高分子の超薄膜状態からの結晶化

ソフトマター複合系の秩序形成

1) ゲスト粒子が誘起する両親媒性分子のメソスケール構造の相転移
2) 高分子鎖の閉じ込めが誘起する膜の構造相転移
3) 棒状粒子と高分子混合系における枯渇相互作用



ソフトマターの構造形成ダイナミクス

1) 球状ミセルの流動相から秩序化に向けての静的及び動的構造形成

1-1 剛体の球状粒子の数密度を上げると最密充填格子(FCCやHCP)を形成する事が知られている、しかし、界面活性剤や高分子等が作るソフトな球状粒子では最密充填構造に加えてBCCやA15結晶相のいわゆるKelvin多面体(最小面積格子)が形成される。これと同時に、結晶化に向けてミセルの拡散係数のslowing downや結晶相でのhopping 拡散等、剛体球には見られない新しいダイナミクスが観察される。このようなダイナミクスが結晶化やガラス化などの液体-固体転移とどのように結びついているのかを光散乱・X線散乱・中性子散乱・レオロジー測定により迫る。
[代表的論文]
Static and Dynamic Structures of Spherical Nonionic Surfactant Micelles during the
Disorder-Order Transition
M. Imai, I. Yoshida, T. Iwaki, and K. Nakaya
J. Chem. Phys. 122, 044906(1-9), (2005)
[共同研究]
東北大学理学部 川勝グループ
筑波大学数理物質科学研究科 宮崎グループ

2)両親媒性分子の秩序転移ダイナミクス

1-2 親水基と疎水基からなる両親媒性分子は、互いに非相溶な分子が共有結合により強制的に1分子内に共存している。この内在的な斥力を最小にする為、両親媒性分子は自己集合化し、球状ミセル、球状ミセルが結晶格子を組む結晶ミセル相、ミセルが棒状に伸びた1次元シリンダー相、ミセルが2分子膜構造へと展開したラメラ相、シリンダー状ミセルが3次元ネットワーク結晶を形成したDouble-Gyroid(DG) 構造など様々な秩序ナノ構造を形成することが知られている。我々は、これら様々な秩序メソ構造間の相転移ダイナミクスを小角X線散乱と中性子スピンエコー法により追跡し、まず相転移の前駆段階で特徴的な最小安定ゆらぎが現れ、さらにその揺らぎが発展して準安定な中間構造が現れた後、最終秩序メソ構造へと転移することを見出した。
[代表的論文]
Kinetic Pathway of Lamellar -> Gyroid Transition: Pretransition and Transient States.
M. Imai, A. Saeki, T. Teramoto, A. Kawaguchi, K. Nakaya, T. Kato, and K. Ito
J. Chem. Phys. 115, 10525 (2001).
Dynamical Nature of Least Stable Fluctuation Modes of Lamellar Structure Observed in a
Nonionic Surfactant/Water System
M. Imai, K. Nakaya, T. Kawakatsu, and H. Seto
J. Chem. Phys. 119, 8103-8111 (2003).
Kinetic pathway to double gyroid structure
M. Imai, K. Sakai, M. Kikuchi, K. Nakaya, A. Saeki, and T. Teramoto
J. Chem. Phys. 122, 214906(1-10)(2005).
[共同研究]
東北大学理学部 川勝グループ
京都大学理学部 太田グループ

3)両親媒性分子の外場下での構造形成

両親媒性分子が作るメソ構造を外場下に置くと、外力によるストレスを緩和しようと、新しいタイプの秩序形成が行なわれる。両親媒性分子が形成するラメラ状構造にずり流動場を印加すると、最初は膜がずり方向に並ぶが更にずり速度を増加させると球状の多層膜ベシクル(オニオン)が形成する。さらに特定の温度領域で、オニオンが平面上に最密充填したハニカム構造が形成される。我々は流動場下光散乱装置およびX線散乱装置を用いて研究を行い、これらの構造形成が温度に対して対称に起こる事を見出した。この実験結果から流動場下での秩序形成を支配する隠れた秩序変数を見いだし、その普遍的な機構解明を目指している。
[代表的論文]
Shear-Induced Ordering of Lamellar and Gyroid Structures Observed in a Nonionic Surfactant System.
M. Imai, K. Nakaya, and T. Kato
European Physical Journal E, 5, 391-402 (2001).
Order-disorder transition of nonionic onions under shear flow
Y. Suganuma, M. Imai, T. Kato, U. Olsson, and T. Takahashi
Langmuir 26, 7988-7995 (2010).
[共同研究]
Lund University, Olsson group
首都大学東京 加藤グループ

4)高分子の結晶化誘導期間における構造形成

1-4 セグメントと呼ばれる要素が数珠状に繋がった高分子の結晶化の場合は、古典的な核形成・成長とは異なり、互いに結合した少なくとも2つの秩序変数(密度と配向)で結晶化を記述する事が必要となる。我々は、半屈曲性高分子であるポリエチレンテレフタレートを結晶化させると、結晶化誘導期間においてメソスケールでの特徴的な密度揺らぎが成長する事を小角X線散乱実験により見出し、続いて偏光解消光散乱および中性子小角散乱測定により、結晶化誘導期間における高分子鎖の秩序形成が棒状性高分子のネマティック転移理論でよく記述されることを明らかにした。すなわち半屈曲性高分子の結晶化では最初に高分子セグメントが平行に配向し、その後、セグメントの位置を調整することにより結晶化するという新しいkinetic pathwayを世界で初めて実験的に示した。
[代表的論文]
Structural Formation of Poly(ethylene terephthalate) during the Induction Period of Crystallization 1. -Ordered Structure Appearing before Crystal Nucleation -
M.Imai, K. Mori, T. Mizukami, K. Kaji and T. Kanaya
Polymer 33, 4451-4456, (1992)
Structural Formation of Poly(ethylene terephthalate) during the Induction Period of Crystallization 2. -Kinetic Analysis based on the theories of phase separation -
M.Imai, K. Mori, T. Mizukami, K. Kaji and T. Kanaya
Polymer 33, 4457-4462, (1992)
Orientaion Fluctuations of Poly(ethylene terephthalate) during the Induction Period of Crystallization
M. Imai, K. Kaji and T. Kanaya
Physical Review Letters 71, 4162-4165, (1993)
Ordering Process in the Induction Period of Crystallization of Poly(ethylene terephthalate)
M. Imai, K. Kaji, T. Kanaya and Y. Sakai
Physical Review B 52, 12696-12704 (1995)
[共同研究]
京都大学化学研究所 梶・金谷グループ

5)高分子の超薄膜状態からの結晶化

1-5 高分子はその紐状の幾何学的特徴から結晶化に際しては、その絡み合いにより完全には結晶化できずに微結晶の周りに非晶鎖が層状に取り囲まれたラメラ結晶が形成される。しかし、その高分子を厚さが数nmの超薄膜状態から結晶化させると非常にきれいな板状の単結晶が成長し、その形状は拡散律速成長に特徴的な周期的フィンガーパターンを示す事を透過電子顕微鏡および原子間力顕微鏡観察により明らかにした。
[代表的論文]
Growth Shape Observed in Two-Dimensional Poly(ethylene terephthalate) Spherulites
Y. Sakai, M. Imai, K. Kaji and M. Tsuji
Macromolecules 29, 8830-8834 (1996).
Tip-Splitting Crystal Growth Observed in Crystallization from Thin Films of
Poly (ethylene terephthalate)
Y. Sakai, M. Imai, K. Kaji and M. Tsuji
J. Cryst. Growth, 203, 244-254 (1999)
[共同研究]
京都大学化学研究所 梶・金谷グループ、辻グループ


ソフトマター複合系の秩序形成

1) ゲスト粒子が誘起する両親媒性分子のメソスケール構造の相転移

2-1 両親媒性分子膜が形成するメソスケール構造に少量のゲスト粒子を加えると、そのゲスト粒子の並進エントロピーがメソスケール構造により制約を受ける為、構造相転移が誘起される事を我々は見出した。例えば、両親媒性分子の作る平面状分子膜の積層(ラメラ)構造の膜間に剛体球であるコロイド粒子を閉じ込めると、膜間に斥力相互作用が誘起され、平面膜は次元性を落として1次元の棒状ミセル相に相転移する。さらに、2分子膜が閉曲面を形成したベシクルと呼ばれる小胞構造にコロイド粒子を閉じ込めると、様々な形状をしたベシクルが球状のベシクルの連鎖構造(ネックレス構造)に転移する。これらの研究より、系にゲスト粒子を添加し、エントロピックな刺激を与えると、通常、観察されない準安定な秩序構造が安定化される事を明らかにした。
[代表的論文]
Inter-lamellar interactions modulated by addition of guest components
M. Imai, R. Mawatari, K. Nakaya, and S. Komura
Eur. Phys. J. E. 13, 391-400 (2004).
Lamellar to Micelle Transition of Nonionic Surfactant Assemblies Induced by Addition of Colloidal Particles
Y. Suganuma, N. Urakami, R. Mawatari, S. Komura, K. Nakaya-Yaegashi and M. Imai
J. Chem. Phys. 129, 134903(1-10) (2008)
Shape Deformation of Giant Vesicles Encapsulating Charged Colloidal Particles
Y. Natsume, O. Pravaz, H. Yoshida1, and M. Imai
Soft Matter 6 5359-5366 (2010).
[共同研究]
Montpellier University, Ligoure group
首都大学東京 吉田グループ

2) 高分子鎖の閉じ込めが誘起する膜の構造相転移

2-2 油と水と界面活性剤からなるマイクロエマルション(ME)はナノスケールで安定な球状膜(球状ドロプレット)を形成し、その内相には膜に囲まれたナノスケールの水のプールをもっている。このナノプールに高分子鎖を閉じ込め、その閉じ込めの強さを制御する事により、膜構造が球状膜から棒状膜へと相転移することを実験的に明らかにした。さらに、棒状マイクロエマルションドロプレットの濃度を上げると、ある濃度で等方的な棒状ドロプレット相からネマティック相へと相転移すること、閉じ込める高分子を会合性高分子にすると、棒状ドロプレットからネットワークへの転移によるゲル形成も実験的に明らかにした。このように高分子鎖を膜内に閉じ込めその高分子鎖の状態を制御する事により、そのメソスコピックな構造からマクロスコピックな物性を制御できることを明らかにした。
[代表的論文]
Polymer-Confinement-Induced Nematic Transition of Microemulsion Droplets
K. Nakaya, M. Imai, S. Komura, T. Kawakatsu, and N. Urakami
Europhysics Letters,71, 494-500 (2005).
Effects of Grafted Polymer Chains on Lamellar Membranes
T. Masui, M. Imai, K. Nakaya and T. Taniguchi
J. Chem. Phys. 124, 074904 (1-12) (2006).
[共同研究]
Montpellier University, Ligoure group
Paul Pascal Institute, Nallet group
東北大学理学部 川勝グループ
首都大学東京  好村グループ
山口大学理学部 浦上グループ

3)棒状粒子と高分子混合系における枯渇相互作用
2-3 大きな粒子が分散している系に小さな粒子を加えると、大きな粒子の周りに小さな粒子の重心が入れない枯渇領域が形成される。この枯渇領域は小さい粒子にとっては、自らの自由体積を狭めるものであるので、大きな粒子を凝集させて枯渇領域を重ねることにより、より大きない自由体積を得ようとする。この場合は2種類の粒子が均一に混ざるのではなく、相分離した方が系は安定なのである。同様な事は、棒状粒子と高分子を混ぜた場合にも観察される。特に添加する高分子を半剛直性の高分子電解質にすると極めて低い高分子濃度から棒状粒子が凝集する事を見出した。
[代表的論文]
The Isotropic-Nematic Transition and the Phase Separation of the Tabacco Mosaic Virus Particles with Polysaccharide
N. Urakami, M. Imai, Y. Sano and M. Takasu
J. Chem. Phys. 111, 2322-2328 (1999).
Polysaccharides Induced Crystallization of TMV Particles
M. Imai, N. Urakami, A. Nakamura, R. Takada, R. Oikawa and Y. Sano
Langmuir 18, 9918-9923 (2002).
The Dependence of Sphere Size on the Phase Behaviors for the Mixture of Rods and Spheres.
N. Urakami and M. Imai
J. Chem. Phys. 119, 2463-2470 (2003).
[共同研究]
山口大学理学部 浦上グループ